新型コロナウイルスCOVID-19感染動向の分析

≪自己紹介≫

初めてブログを試みます。私は勤めていた大学を定年退職してもう20年近くなり、コンピュータ時代の急激な進展におたおたしている80歳の老人です。こんな年寄りが、ブログをやってみようと思い立ったのは、COVID-19 (以下コロナと略称します)が猛威を振るっていることに関わっています。

私は昨年1月コロナ感染が始まったころから毎日の感染データを眺めてきました。幸いコロナには感染せず今日までのところ助かっておりますが、コロナ感染のデータを観察するのにはまって、感染が増えたり減ったりする、その変化には何が影響しているのか、感染の広がりを抑えるのに何が効くのか、とかを考えるようになり、1月ほど前に、コロナ感染動向の説明と感染のコントロールを考えるレポートをまとめました。

 現在コロナ感染は1波、2波、3波と変動しつつも全体としては増加傾向が続いています。3波はピークを過ぎましたが、ここで緩めたら4波に襲われるとして、専門家の方々が警告しておられる中、政府は2次緊急事態を解除しました。対策は緩めないとしていますが、対策の中身は依然マスクをきっちり、接触回避をしっかりなどが中心で、対策は手詰まり感の様相です。

私のレポートですが、私は専門は機械工学でコロナ問題は全くの素人、しかも80歳の老人の書き物ですから、手元に置いたままにしていましたが、ひょっとしたら参考になる面があるかもしれないと思い、このブログを思いついた次第です。以下レポートの紹介です。

<お詫びとお願い>かなり長文で数式や図表(しかも鮮明度悪い)がいくつかあり、読みづらいですが、ご容赦ください。

***レポートのタイトル

新型コロナウイルスCOVID-19感染動向の分析ー

   検査数操作による感染拡大制御の必要性ー≫

       

****レポート概要

COVID-19による感染の広がりは等比的で、感染者が増えるにしたがって急激に増大する。数式では指数関数で表される。感染の広がりを抑制する方策は2つに大別される。

1つは、PCR検査などによって市中にいる感染者を見つけて隔離すること、

2つは、感染防止策を講じて市中に感染者がいてもできるだけ感染しないようにすること。

後者の感染防止策については、濃厚接触機会を減らす(外出しない、移動しない、活動しないなど)、濃厚接触しても感染しにくくする(マスクや仕切で防護)、COVID-19の感染力を弱める(ワクチンの開発普及)、という3側面からの方策が講じられている。

PCR検査などによって陽性と確認された毎日の確認感染者数が発表される。この小稿では、この日毎確認感染者数の変化が指数関数のつながりで近似できることを確かめ、そしてその近似式に上記2つに大別される感染対策の効果がどのように反映されているか、大阪府、東京都のデータを対象に、調べてみた。その結果から以下の諸点が指摘できる。

■この1年間の経過をみると後者の感染防止策は次第に改善され、昨年2月感染初期と比べると80%ぐらい減ってきているとみられる。しかし前者の、検査数を操作して感染者を減らす方策についてはほとんど改善が見られず、感染初期と比べると、むしろ後退しているとみられる。

■この1年間、確認感染者数は1波、2波、3波と増減はあるが、全体としては明らかに増加が続いており、現在再度緊急事態宣言が出され、後者の感染防止主眼の対策強化が図られている。しかしこの対策はすでにかなり改善されており、さらなる大きな効果を期待するのは難しいとみられる。

■前者の方策について、検査数を増やす効果について試算してみたところ、見るべき効果が期待できそうな結果になった。後者の対策効果が限界に近くなっている現在、感染防止策と合わせて検査数増大対策も併用するよう提案したい

検査数の増やし方であるが、感染防止策が現在水準を維持されていれば、従来いわれてきたような大規模な検査数ではなく、現在の1.5倍とか2倍とかの程度から始め、効果を確かめつつ増やせばよいと思われる。

**********以下レポート本体

≪本文目次≫ 1 感染は等比的に広がる

           2 等比的変動に注目して感染データをみる

         3 等比的変動に注目して実際の感染データをみる

      31 Rに影響する因子 32 感染者の自然回復

        33 検査による確認感染者数Qxと市中感染者数Ixの関係

      34 実際のデータをみる  

     4 感染状況の監視および感染抑制方策を考える

      41 感染変動特性のおさらい  42 感染の抑制管理

      43 検査数Mによって市中感染者割合pを操作する

      44. ここでの分析モデル(とくに式⑥)の限界

  5 おわりに(感染抑制の操作パラメータとして検査数の活用

         を提案する)

≪以下本文開始≫

1 感染は等比的に広がる

新型コロナ感染は感染させられた人が新たな感染源に加わるわけで、感染に関わる条件が変わらなければ、複利で膨らんでゆく借金と同じで、感染者の数は等比的に増えてゆく。このことは、いまや専門の人でなくとも誰もが知っているはずだが、念押ししておきたい。

  適切な感染対策を講じれば増加ペースを抑えることができるし、減少に転じることもできる。忘れてならないのは、減少の場合も等比的であるということである。減少に転じた最初は大きく減っていくが、感染者数が少なくなった段階になるとなかなか減らないようにみえる。重要なのはしかし、少なくなった段階から先も警戒を怠らず、対策を緩めてはならない。肝に銘じて置くべきである。

 安全で有効なワクチンが開発され、世界の誰もが何時でもどこでも容易に利用できる状態になれば、また感染が再発しても早期に対応でき、既知のインフルエンザウイルス感染などと同じように、このウイルスと共存できる“with-Corvid19”といわれる状態になろう。それまでは、感染者数の発生を一定のレベル以下に抑えるように警戒・対策維持の緊張関係を続ける必要がある。一定のレベルとは、医療体制が日常の医療活動とともに感染者ケアを維持できるレベル、人々の生活・暮らしが維持できるレベルである。

 

2 等比的変動に注目して感染データをみる

■ 感染の広がりをみるのに、1人の感染者が1日の間に未感染者を感染させる人数Rで表す。ある日未感染の人口集団へD0人の感染者が流入してきて感染が始まる(0日目)とすると、翌日1日目にはD0*Rの人が感染し、総感染者はD0+D*R、2日目は新たに(D0+D0*R)*Rが感染し、全感染者数は(D0+D0*R)+(D0+D0*R)*R=D0(1+R)2となる。こうしてx日目の全感染者数Dx は下式①のようになる。

  Dx = D0*(1+R)X  ・・・・・・・・・・

 x日目の感染者数Dxをその前日の感染者数で割り算すると[1+R]となるから、[1+R]は日毎の感染者増減率を表している。

[ノート]上式中の記号 “*” は掛け算を表す。 なお割り算は 記号 “/” で表   す。 以下の文中でもおなじ

 

■変化の様子は図1のようである。 日が経つほど増加は急激になる。 最初の流入感染者数D0が3人と10人の場合、Rは0.15と0.2の場合を示してある。 図1(上)は、縦軸の感染者数を等差目盛(普通目盛)で表した図、図1(下)は等比目盛(対数目盛と呼ばれる)で表した場合である。

■感染の広がりを抑えるには、感染者数が少ない初期段階で、感染動向を注視するのが重要であるが、普通目盛の図1(上)ではなかなか見極めにくい。 誰の目にもはっきりわかるほど増える頃には、感染者がどんどん増えてきており、対応が大変になる。 だが対数目盛の図1(下)では、感染者の絶対量に関係なく、Rが一定であれば直線になり、初期段階でも増え方の様子が見極めやすい。

■等比的に変動する感染データにみられる特徴

 Rが一定であれば、対数目盛グラフでは感染者数の変化は下式のような直線となる。 Y=a+b*X

  Yがx日目の新規感染者数Dx、aが感染源となる流入感染者数、傾きを表すbがRに関係する。

 対数目盛なので、少しややこしいが、対数記号LN(対数の底が自然数eである場合の記号)を用いると、 Y=LN(Dx)、a = LN(D0)、b = LN(1+R)  であるので、普通目盛のグラフでは指数関数式①、あるいは下の形で表現できる。

  Dx-D0*EXP(LN(1+R)*x)  ・・・・・・・・・・・

  

3 等比的変動に注目して実際の感染データをみる

実際の感染者数の変動も基本的には等比的変動をすると考えられるが、図1のような変動とはかなり違っている。 主な相違点は2つある。

1つは、Rが一定ではなく様々な因子で変化すること、

2つは、実際に得られるデータは式①のような全感染者数Dxではなく、PCR検査などによって陽性と判定された確認感染者数であり、Dxの一部に過ぎないということである。

 

31 Rに影響する因子

 影響因子は、感染させる側(感染者)、感染させられる側(未感染者)、および両者が濃厚接触する機会頻度の3つの側面で考えられる。

■ 感染させる側(感染源となる人)の感染力の強さ(αで表す)

 αは、1人の感染者が、その感染者に濃厚接触してきた未感染者を感染させる確率と定義する。

 αはコロナウイルス自体の感染力の強さと強い関係があるだろう。 英国などから広がっている変異ウイルスは感染力が7割も強いとされ、このような変異ウイルスに侵された感染者のαは一挙に大きくなるだろう。 厳重な水際対策など、それの流入防止が必要になっている。 マスクや仕切りなどの対策がなされるが、決定的な対策はワクチンであろう。

[ノート]濃厚接触とは、これ以上近づいたら感染するリスクが生じる感染者の周りの空間(感染領域)内に他者が入り込むこと。 感染領域は感染者の周り2m程度とされている。 しかし正確な特定はなかなか難しい。 感染者のウイルス放出態様、感染者周りの空間の閉鎖性、周辺の気流の流動性や温度・湿度などなど山ほど影響因子がある。 COVID-19の場合飛まつ感染と接触感染、とくに前者が大部分とされており、したがって飛まつをできるだけ拡散させないようにマスクの着用などが要請されている

■ 未感染者が感染者に濃厚接触した時に感染させられる確率(βで表す)

 マスク、消毒など防護策を講じていれば感染する確率は減少する。 医療従事者とくに感染患者をケアする人々、介護者など濃厚接触不可避の場合は厳重な全身防護策を講じてβゼロを期す必要がある。

1人の感染者が1日の間に未感染者と濃厚接触する頻度(Sで表す)

 Sは、基本的には対象とする国、地域、集団の人口(人数)、人口密度(密集度)、人々の移動頻度などに比例して増加するだろう。 減らす方策としてSocial-distancing、密集回避、移動頻度削減(休業、外出回避、活動縮小、テレワークなど)が実施されてきている。

■[αβS]; 3つの積は式①のRに相当する。 ここでは感染防止指数と呼ぶことにする。

   

32 感染者の自然回復

 市中感染者の多くは、日数を経ると自然に回復する。 感染者の自然回復は感染した翌日から始まり、2週間ほどで回復するとされている。 回復者が生じるとその分、市中感染者数は減少する。 ここでは回復率は一定、1日当たりの回復率は5%と仮定する。 ここでは自然回復を表す係数(γ)として、本日の市中感染者が未回復で翌日も市中感染者である比率と定義する。 そうするとγ=0.95

 

33 検査による確認感染者数Qxと市中感染者数Ixの関係

■ 式①のDxは対象集団における全感染者数である。私たちが知り得る具体的なデータはDxではなく、その一部、PCR検査などによって把握できた確認感染者数である。確認された感染者は入院或いは隔離措置が取られ、感染源ではなくなる。それ以外の感染者は市中に残され、翌日の感染源となる。感染者数を以下のような記号で定義する。

 Ix;感染開始からx日目の全市中感染者数

 Qx;感染開始からx日目にPCR検査などで陽性と判定された日毎の確認感染者数

     p ;全感染者数Dxのうち市中感染者の割合

そうすると以下の関係になる。

   Ix = p*Dx 、Qx = (1-p)*Dx、Qx/Ix = (1-p)/p            ③

■ 影響因子を考慮した時のIx、Qxを推定する関係式

 上述した影響因子を考慮に入れて、既述の式①を求めたのと同じ要領でQx、Ixを推定する関係式を求めてみると、

検査による確認感染者数  Qx = *1X       

市中感染者数        Ix = D0*(p*(γ+αβS))                       ⑤

となり、式①と同じ形の関係式が得られる

 対数目盛グラフと対応するような自然数を使った形に変形すると、下の関係になる。

  Qx = *2*x)           ⑥                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   

     Ix = D0*EXP*3*x)             ⑦

  Ix=(p/(1-p))*Qx                               ⑧

■得られた関係式から以下の情報が得られる。

p*(γ+αβS)は、式①の[1+R]と同じ意味を持ち、日毎の感染者数の増減率を表す量である。

Qxは実際のデータがあるので、それを手掛かりに、pを推定することができ、それを基に市中感染者数Ixも推定することができる

*QxはPCR検査など感染確認の検査によって把握されるのだから次の関係がある。

検査数をM、陽性率をδで表すと、

   Qx = M*δ                   ⑨

したがってMを操作することによってpを変えることができる

 

34 実際のデータをみる

■ 図2は大阪(大阪府のこと、以下同じ)の日毎確認感染数(Qx)、および検査数の推移である(図2(上)は普通目盛、図2(下)は対数目盛)。検査数(M)、外出自粛、3密回避やマスクなどの対策の程度によって感染の広がり程度が変動し、対数目盛図でも図1のような単純な直線にはならない。

しかし対数目盛図を注意深く見ると、日数区間を区切ってみると部分的には直線で近似できることがわかる。それで、直線で近似できる区間をつないでみると図3のようである。

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図2

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図3

[ノート]実際のデータをみて直線近似できる区間を見出すのは、観測者がグラフを見て判断するが、それを決めれば、あとはEXCELを利用すれば、対数グラフも、指数近似式も容易に求めることができる。ただし感染開始時の感染源人数を推定する必要があり、2020年1月2月頃から作業をしなければならないところが手数を要する。

■ 式⑥のD0は、直線近似できる各区間初日(0日目)の市中感染者の人数である。この感染源となる人の人数が分からないと式⑥に表れる影響因子(パラメータ)を具体的に算出できない。途中の近似区間のD0はその直前の近似区間の関係式から推定できるが、感染が始まった最初の時点のD0だけはその当時のデータから推測せざるを得ない。その値はそれ以後の感染者の推定に直接に影響するのでできるだけ正確な人数をつかみたいがそのような資料は見つからない。ここでは当時の感染者確認状況からみて、大阪の場合、2月26日時点でD0を3人とした。表1の結果はこの感染源人数から感染が広がったとして得られた結果である。

 ■ 図3をみて次のことが指摘できる

実際の確認感染者数Qxは、増減を繰り返して複雑に変化するが、区間を区切って観察すれば、基本的には等比的に変化するという感染特性と同様の変化をしており、式⑥と同形の指数関数の組合せで近似できる。

*それぞれの区間の指数と係数の具体的数値が把握できるので、それらとここで得られた式⑥の、感染の広がりに関わる影響因子(パラメータ)についても数値的に知ることができる。結果を表1に示す。市中感染者の人数Ixも確認感染者数Qxを基にして推定できる。表1最右列の[p/(1-p)]の値をQxに乗じればIxが求まる

 [ノート]各区間の近似直線の数式Qx = A*EXP(B*x)式⑥と同形で   ある。したがって A = *4  とできる。ここでは各区間のA、BはEXCELによる最小二乗法で求めた。したがってD0を与えれば各区間のpおよび[αβS]の値が求められる。

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表1

東京都のデータについても指数関数近似を行った。大阪府データと同じように扱えることが分かった。結果を図4、表2に示す。

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図 4

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表 2

4 感染状況の監視および感染抑制方策を考える

41感染変動特性のおさらい

■基本関係は式①で表される

 Dx = D0*(1+R)x  あるいは  Dx=D0*EXP(LN(1+R)*x)  ①

  ここで D0;感染源となる感染者の人数(0日目の感染者数

      Dx;x日目に対象地域に発生している総感染者数

      R;1人の感染者が1日の間に未感染者を感染させる人数

■実際の感染動向

 実際の感染変動は主に次の2つの影響を受ける

・濃厚接触回避やマスクなどの影響因子(パラメータ)によってRが変化する

・Dx の一部がPCRなどの検査で感染者と確認された人は隔離されるこの相違を考慮した感染変動は下の関係式で表される

 Qx = (1-p)*Dx、Ix = p*Dx、Qx/Ix = (1-p)/p                     ③

 Qx = *5*x)         ⑥            

    Ix = D0*EXP*6*x)                             ⑦

   Ix=(p/(1-p))*Qx                                 ⑧

ここで Qx;x日目のPCR検査などによって確認された感染者数

      したがって Qx = M*δ          ⑨

    M ;1日に実施されるPCRなどの検査数

    δ ;検査によって陽性と判定される人の比率(陽性率)

    Ix ;x日目の市中に残されている感染者数

    p :総感染者Dxのうち市中に残される感染者の割合

       (このpを中感染者割合と呼ぼう)

したがってQx、Ix、Dxの間の関係は式③のようである

    α ;1人の感染者が、その感染者に濃厚接触してきた未感

       染者を感染させる確率

    β ;濃厚接触した未感染者が感染する確率

    γ ;市中感染者の自然回復を考慮する係数(感染者は1日

      経つと5%の人が回復し、感染力を持たなくなると見積

      もる。したがって翌日に残る95%が市中感染者とみる

      すなわち γ  =0.95)

    S ;1人の感染者が1日の間に未感染者と濃厚接触する頻度

   [αβS];α、βおよびSの3つの積は、1人の感染者によって生

        じる1日当たりの感染者数を表す。ここではこの量を

       感染防止指数と呼ぶことにする。マスクや消毒、3密

       回避、外出自粛などの効果がこの指数に反映される

 以上の関係から次のことが指摘される

[p*(γ+αβS)]は感染者数の日毎の増減率を表す。式①のRに相当す るαβS だけでなく、pも影響する

*pは検査数Mによって変化するから、Mを操作することによってpを変えることができ、Mを増せばpは小さくなる。

 

42 感染の抑制管理

 以上感染の広がりに関わる影響因子、およびそれらが感染の広がりにどのように影響するのか、その関係式が得られた。次に、感染の広がりを抑制する上で、それら関係式が利用できないか、考えてみたい。

■操作可能な影響因子(パラメータ)と操作方法

*私たちが操作可能なパラメータはp(市中感染者割合)および[αβS](感染防止指数)である。

*ただし[αβS]については、αはCOVID-19の感染力に関わるパラメータであり、マスクなどの対策も必要だが、決定的な対策はワクチンであろう。安全で効果的なワクチンが開発され、大量に利用可能になればよいが、それまで私たちが操作可能なのは主にβやSである

pは検査数Mによって、βはマスクや手洗い、消毒などによって、Sは外出削減、3密回避、活動削減、移動削減などで濃厚接触機会を減らすことによって操作できる

 

■感染抑制管理の基本方向

 したがって管理の基本はパラメータpおよび[αβS]を操作して、感染状況を以下のように管理することである。

・まず、感染の動向を支配する量[p*(γ+αβS)]を減らして、Qxを減少に向かわせること

・つぎに、医療や介護活動が維持可能な水準、および暮らしや経済・社会・文化活動が維持可能な程度にまで[αβS]とくに[S]の規制レベルを緩和できる水準までQxを減らしたら、そのQx水準を超えないように感染状況を監視し、維持すること。

 

■過去1年の感染抑制の経過をみてみよう

 表1に指数近似によって得られた各区間のpおよび[αβS]の値を示してある。その推移を図示すると図5のようである。図から次のことが読み取れる。

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図 5

*市中感染者割合pは、感染初期は8割程度だったが、7月頃以後9割を超えた。10月を過ぎてわずかに減少しつつあるが、9割は越えたままである。検査によって感染者数を抑えるという機能はあまり改善されないまま今日に到っているとみられる。

*感染防止指数[αβS]は、この1年全体をみると着実に改善されてきている。4月5月の緊急事態宣言時には0.17となり、感染当初の0.66と比べるとおよそ75%下がっている。当時8割ぐらい減る必要(西浦教授)と指摘されていたが、大阪ではそれに近い効果が実現されたとみられよう。その後緊急事態宣言が解除されると指数は悪化したが、8月9月は0.08にまで下げられた。「Go toキャンペーン」で悪化したが、その後第3波の感染者増大が生じて現時点(2021年2月10日)では0.05程度まで下がっている。

[αβS]は、完全に実行されればゼロだが、αに関わるワクチン待ちの現在、ゼロにするのは事実上困難だろう。そうだとすると0.1を切る水準にまで達している現在、[αβS]に関わる対策にさらに大きな効果を期待するのは難しいと思われる。

*東京都のデータでは図6のようである。全体的には同様の推移であるが、9月以降の[αβS]の改善は大阪と比べると弱い傾向である。

*まとめると、この1年の感染抑制の対策は[αβS]を小さくする方策を主眼とするものであり、pを操作する方策はほとんど改善されてこなかった、とよみとれる。

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図 6

*現在2度目の緊急事態宣言が出され、感染抑制対策の強化が進められているが、対策は依然として、[αβS]に主眼を置いたものである。しかし上にみたように[αβS]の改善は限界近くまで達しており、大きな効果は期待できないとみられる。このような対策に固執する限り、αを減らすワクチンを待つしかなくなるのではなかろうか。

 

43 検査数Mによって市中感染者割合pを操作する

■ [αβS]方策だけでなくpを使う方策を実施すべき

*感染者数を制御するのに私たちは2つの操作パラメータ、pと[αβS]、を持っている。しかしpを感染者数抑制方策として使おうとする対策は、これまでの経過をみると、重視されてこなかったと見受けられる。pを操作するというのは具体的には検査数M を感染抑制方策として使うことを意味する

*これまで、PCRなどの検査は、主として、COVID-19による感染が疑われる症状がある人について、その症状がコロナ感染症かどうかを確認するために行われてきた。それだけでなく感染の広がりを抑える意味で、確認された感染者の行動経路をたどるなどして、感染者や濃厚接触者を把握する調査(厚労省/積極的疫学調査)も行われてきている。しかし感染の広がりを抑制管理するために、検査数Mを操作パラメータに用いようという視点からみると不十分と思われる。

*検査を増やす対策は重要で、効果があるとの指摘は専門的研究者からも早くから行われてきたし(たとえば国谷・稲葉2020)、経済的コストも[αβS]方策と比べるとずっと少ないこともあり、国会の場でも何度も強く要請されてきている。

*ただしこの小稿で得られた結果によれば、従来言われてきたような大規模な検査数でなくても、現在実施されている検査数の1.5~2倍とかの程度でも効果が期待されるという点である。

これは、式⑥にみるように、検査数を増やしてpを小さくなるようにすれば、市中感染者を減らす効果だけでなく、感染速度も減らせる効果も期待できるからではないかと思われる。

■ 検査数M増加による感染拡大抑制効果の試算例

大阪府および東京都の場合を例にMを増やしてQxを増やし、pを小さくしたら感染動向がどのように変化するかみてみよう。

<例1 大阪府の場合>

図7の×印の点列は、2021年月1日からの中7日間移動平均で見た確認感染者数Qxの実際データである。昨年末から新年正月にかけて急増したが、1月8日頃から平衡状態からわずかだが減少パターンになった。この図を作成している時点(1月22日)では、この減少パターンは続いているが、しかし減少はわずかで、“高止まり“といわれる状態が続いている。

 

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図 7

*1月8日にMを増やして意図的にQxを急増させたらどうなるか

 この間(1/8-1/16)の指数関数近似式は表1に示されているが、表3に再掲してある。1月8日のQxは553人(指数近似では551人)であったが、これをおよそ1.5倍の800<CASE①>、およびおよそ2倍の1100<CASE②>とし、そうなるようにMを増やしたとする。

[αβS]は実際データと同じ0.108とすると、他の特性値は自動的に求まるので、CASE①、②に対応するQxの数式が、表3のように決まってくる。この数式やpの値から、Qxおよび市中感染者数の変化をみてみると図7のようになる。

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*試算例をみると、増やした初日からしばらくはQxが増加するが,減少ペースが大きくなっているので2週間ほど経つと、感染抑制効果が見えてくる。Qxの予測値は、1/25では実際データのペースの場合では499人だが、CASE①では442人に、CASE②では378人に減少すると予測される。

  市中感染者数Ixの減少ペースは大きく、2週間で半減、3週間で1/3ほどになる。

<例2 東京都の場合>

  大阪府の場合と同じ要領で試算した例を図8に示す。東京も正月明けに急増したが、1/8頃から減少パターンに転じ、図8作成時点(2月1日)は、表4に示した指数関数近似式のペースの減少が続いている。このペースが続くと仮定して外挿すると、日毎確認感染者数Qは2月20日258人、3月5日で131人にまで減少する勘定になる。

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この状態で検査数Mを増やした場合にどうなるか、試算してみる。図8に示した例は、2月6日にMを増やして、この日の確認感染者数を1.5倍、553人から約800人に増やした場合のQの変化を予測したグラフである。図をみると、増やした日から1週間はQは多くなるが、以後はMを増やした場合の方がQは少なくなり、2月20日には143人に、3月5日には29人にまで減少するという予測になっている。市中感染者も3月5日4000人程度いたが、3月には131人に大きく減少するという予測になっている。

  

■ 上記の試算結果は、検査数MによってQxを増やし、pを減らせば効果的に感染の広がりを抑制できる可能性を示している。[αβS]削減方策だけでなく、Mによってpを操作する方策も並行実施してみるよう提案したい

■ 検査数Mをどれだけ増やす必要があるか

*試算例ではQxを1.5倍、あるいは2倍にする場合を示した。そうするのに検査数M をどれだけ増やす必要があるかであるが、市中感染者の存在には分布があり陽性率が変化するから正確には予測できない。したがって最初はMを、現時点の検査数の1.5~2倍とかで開始し、Qxの変化を観察しながら、効果が表れるようならMをさらに増やしていくのが現実的と思われる

*検査対象であるが、ただ漫然と増やすのは良くない。

クラスター発生点などに注目した集団、

・医療施設、介護・養護施設など濃厚接触不可避だが感染者発生を厳に回避すべき集団

・[αβS]が小さくないと推定される集団

など、積極的疫学調査の手法を参考に、できるだけ効果的に感染者を捕捉できる対象集団を選んで、Mを増やすのが肝要だろう。

増やした当初は、医療体制の対応が厳しくなるから、医療や隔離施設などとの兼ね合いが必要で、とくに医療関係者、検査担当者らと意思統一を図った上でQxの増加量を判断する必要がある

*これは全くの素人判断で安易だと叱られるかもしれないが、Qxを増やしてもそれに比例して重症感染者が増加するとは思えない。新型コロナ感染が原因と疑われる症状で発症している人の多くは、増やす以前の検査ですでに確認されていると考えられるからである。

■Mの操作について

いったん増やした検査数Mはできるだけ減らさないことが大切と考えられる。これまで日曜祝日は大きく減少するが、民間検査など活用し、曜日祝日を問わず数の変動を減らす工夫が欲しい。

   [ノート]正月明け数日、多くの自治体で確認感染者数Qが急増したが、これは年末年始[αβS]の水準が悪化したこともあろうが、それだけでなく、その間連休でMが数日連続して大きく減少したことも関係していると思われる。

*一般的にいって、家庭内感染や学校などでの集団感染が広がっている事態を考慮すれば、望めば、誰でも、どこでも、何時でも、検査を受けられるように検査体制はできるだけ強化する必要がある。ただしこの小稿は、検査数が感染の広がり抑制の操作パラメータとして使える可能性があると指摘したものである。

 

44. ここでの分析モデル(とくに式⑥)の限界

■ 上記試算結果の定量的信頼性は高くない。下記のような問題があるからである。

*感染源となる感染が始まった最初の流入感染者の数(D0)が原点データとして必要だが正確な把握が難しい。その誤差がすべての計算結果に影響する

*市中感染者の自然回復の取り扱いも実態と異なるだろう。

*日毎確認感染者数は、公表されている数値(ほとんどが報告日に基づく数値と思われる)をそのまま利用し、日毎の感染者は翌日には即感染源となると想定している。

[ノート]実際には感染日、発症日、検査日、報告日の間にはズレがあるだろうし、感染しても感染力を及すまでの潜伏期間もあるかもしれない。ただこれらの追求は感染症の医学的、医療的視点からは大切だが、感染の広がりを抑える、という統計的視点に立てば、強くこだわるのは得策でないと思われる。

■ここでの分析モデルでいえること

 ①日毎の増減率は[p*(γ+αβS)]で表される。したがって感染者数を抑制する基本策は、p*(γ+αβS)]を小さくすることである

 ②そのための操作可能パラメータは感染防止指数[αβS]だけでなく、市中感染者割合pも利用可能である。pは検査数Mを増やして日毎確認感染者数Qxを増やすことによって操作できる。つまりMが利用可能ということである。

 ③ pを減らせば(すなわちMを増やせば)感染抑制の可能性があることは試算例では確認された。

④可能性は確認されたが、Mを増やしてどれだけ[p*(γ+αβS)]が減少するのか、量的な効果は、実際にMを1.5とか2倍に増やしてみてQの変化を監視する必要がある

 

5 おわりに(感染抑制の操作パラメータとして検査数の活用を提案する)

 COVID-19による感染の広がりは等比的で、感染者が増えるにしたがって急激に増大する。数式では指数関数で表される。感染の広がりを抑制する方策は2つに大別される。1つは、PCR検査などによって市中にいる感染者を見つけて隔離すること、2つは、市中に感染者が居てもできるだけ感染しないようにすることである。後者の方策は濃厚接触機会を減らす(外出しない、移動しない、活動しないなど)、濃厚接触しても感染しにくくする(マスクや仕切で防護)、COVID-19の感染力を弱める(ワクチンの開発普及)、という3側面からの方策が講じられている。

PCR検査などによって陽性と確認された毎日の感染者数が発表される。この小稿では、この日毎感染者数の変化が指数関数のつながりで近似できることを確かめ、そしてその近似式に上記2つに大別される感染対策の効果がどのように反映されているか、大阪府、東京都のデータを対象に、調べてみた。その結果をみると以下の諸点が指摘できる。

■この1年間の経過をみると後者の方策は次第に改善され、昨年2月感染初期と比べると80%ぐらい減ってきているとみられる。しかし前者の、検査数を操作パラメータに利用する方策についてはほとんど改善が見られず、感染初期と比べると、むしろ後退しているとみられる。

■この1年間、確認感染者数は1波、2波、3波と増減はあるが、全体としては明らかに増加が続いており、現在2度目の緊急事態宣言が出され、後者主眼の対策強化が図られている。しかしこの対策はすでにかなり改善されており、さらなる大きな効果を期待するのは難しいとみられる。

■前者の検査数を増やす方策についての試算は、感染の広がりを抑制できる可能性を示している。[αβS]削減方策だけでなく、Mによってpを操作する方策も並行実施してみるよう提案したい

■検査数の増やし方は、現在の1.5倍とか2倍とかの程度、各都道府県でみれば数百から1万人の規模で始めればよいと思われる。現在は、民間の協力も得れば、十分可能な検査数ではなかろうか。

■大規模な検査でなく、この程度の検査数の操作によって感染者数を抑制できることが、実際に確かめられれば、この方法を組み込んだ、感染の広がりを計画的に抑制管理する枠組みをつくることができるのではなかろうか。1つの私案を末尾に追記しておきます。        (20210220記)

【文 献】

KUNIYA,T. & INABA,H.(2020) “Possible effects of mixed prevention strategy for COVID-19 epidemic: massive testing, quarantine and social disytancing”, AIMS Public Health, 7(3), pp.490-503

*****

 【追記】検査数Mを操作変数に加えた計画的な感染監視抑制要領

■感染者数Qxの削減目標水準と達成月日の設定

 感染管理を計画的に進めるために、関係者(COVID-19感染エキスパート、医療、保健、行政、経済)の合意協働体制を進めるために必要。

*限界値Qcr

・医療体制(とくに重症者ケア可能容量)、介護体制が持続できる許容Qx

・[αβS]とくにSの望ましい規制緩和(たとえば緊急事態解除)が可能となる許容Qx

・その他保健分野、行政分野などに関わって考慮すべき許容Qxなど

さまざまな限界水準があると思います。

*必要な達成月日を設定する

*Qcrと達成月日が設定されれば、[p*(γ+αβS)]をいくらまで減らさねばならないかが決まってくる。Qx対数グラフ上で、現在のQx と目標月日Qcrを直線で結べば、その勾配が所要の日毎減少率[p*(γ+αβS)]である。 

所要p*(γ+αβS)]が決まれば、それに見合うpが得られるように、Mを増やし、それによるQxを監視して[p*(γ+αβS)]が所要の大きさに近づくようにMの操作を続けることになる。

*もちろん感染防止指数[αβS]を下げる対策も重要であるのは論を待たない。ただ[αβS]は対策の程度や効果を数値的に予測することは難しいから、管理制御という面ではpの方がやりやすいのではないだろうか。

■感染動向の監視と検査数Mの操作による対応

* 感染者数Qx増減動向と[p*(γ+αβS)]の関係

 状態① [p*(γ+αβS)] > 1 感染者数Qxは増加傾向

 状態② [p*(γ+αβS)] = 1 感染者数Qxは変化せず一定に留まっている平衡状態

  状態③ [p*(γ+αβS)] < 1 感染者数Qxは減少傾向

 *感染動向監視と抑制の枠組みは下表のようであろう。

日毎感染者数 Qx

増減傾向

状態評価

検査数Mの増減による対応策

 

限界値Qcrよりも多い

状態①

大変危険

直ちにMを増やし、早く状態③に持ち込む。[p*(γ+αβS)]値が大きいほど急増するので対応を急ぐ

状態②

危険

Mを増やして状態③に移行させる

状態③

強い警戒

Mを減らさず維持しつつ、目標達成の可否を予測し、不可ならMを増やして減少傾向を強くする

 

Qcr以下

状態①

警戒要

Mを増やして状態②か③に移行させQcr以下を保つ

状態②

注意して監視

Mを減らさず、状態②を維持するように監視する

状態③

注意して監視

Mの減少可能だが、Qcr以下および状態②を保持する

  

*[p*(γ+αβS)]の監視(モニタリング)について

 感染動向を監視する上でこの量が具体的な数値として把握できればわかりやすい。この量は日毎の感染者数の増減率を表しているから、日毎のデータがあれば、前日のデータで割り算すればその日の比率が求まる(ただし変動が大きいので7日移動平均値を用いる)。これをグラフにすれば監視しやすい。付図1はその例(大阪府2020/12/1~2021/1/28のデータ)

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                   *****レポート本文 了


 

 

 

 

*1:1-p)/p)*D0*( p*(γ+αβS

*2:1-p)/p)*D0* EXP(LN(p*(γ+αβS

*3:LN(p*(γ+αβS

*4:1-p)/p)*D0),   B = (LN(p*(γ+αβS

*5:1-p)/p)*D0* EXP((LN(p*(γ+αβS

*6:LN(p*(γ+αβS